◎ 雷のおちない處
 昔、雷が一度落ちて、ひどい目に逢った為に、其後その地に限って落ちなくなったと傳へられる処が、幾らもある。

(1)生駒郡平城村秋篠《あきしの》
 秋篠の秋篠寺境内、本堂の東側に『かみなり石』というのがある。あまり大きくはない。昔、こゝへ雷が落ちて、此石の為に臍と爪とを取られ、爾来、この付近一里四方には、落ちないことになったという。其『雷のへそ』と爪とは、寺寶として今も傳はっている。(小島千夫也)
(2)山邉郡二階堂村指柳《さしやなぎ》
 指柳では、鎮守の井戸へ落込み、神主が蓋をして、誓ひを立てさせたので、指柳の村には落ちなくなった。(乾健治)
(3)山邉郡丹波市苣原《ちさわら》
 苣原では、カンジョウの上に落ちて、足を挟まれ、逆さまの宙ぶらりんになって苦んで居たら、殿様が通りかゝり、後々を戒めて助けてくれた。それから苣原には落ちない。
 カンジョウとは、村の入口、山の入口などに、魔除けの為に張り渡す一種の大型のシメ縄である。(乾健治)
(4)磯城郡安倍村山田
 山田では、昔は、よく落ちて居たのが、其後全く落ちなくなって居た。そこへ久しぶりに落ちたのが、井戸の中に陥った。傍に居た石地蔵さんが、早速井戸に蓋をして、其上にドツカと坐りこんだので、雷は後を誓って許され、それ以来、いよいよ落ちなくなった。(西久保奈良石)
(5)磯城郡田原本町
 田原本町では、氏神の境内に落ちて、大木を数本焼いたので、氏神さんが怒って、雷を縛り上げた。それで、以後町内には落ちないことを誓った。(笹大三郎)
(6)磯城郡三宅村小柳
 小柳では、鎮守三十八神社の、鳥居左側の松に落ち、其枝に引懸った所を、神様に捕へられて、幹に縛りつけられ、更に村人に針金で縛られて、あやまった。
 (乾健治)
(7)高市郡眞菅村小槻《おうづく》
 小槻では、お宮の大石の上に落ち、其処に隠れて居た大日様につかまり、ふんどしを取られて、散々にあやまり、漸く褌を返してもらった。其石も今猶凹んで赤くなって残って居る。(崎山卯左衛門)
(8)高市郡眞菅村曽我
 曽我では、東楽寺の付近の井戸に落ちたが、其あとから続いて黒い物が落ちて来たと思うと、それは聖徳太子で、手早く大石を取って其井戸を塞がれた。これに懲りて雷は其後落ちなくなった。今も井戸の傍には、太子の祠がある。
  (崎山卯左衛門)
(9)高市郡高取町下土佐
 下土佐では、西方寺の井戸に落ち、寺の和尚に蓋をされたのに懲りて、其大字には落ちなくなった。(辰巳正身)
ここから「大和の伝説 増補」
◎ 雷の落ちない所

(増1)大和郡山市東明寺
 矢田の東明寺には昔から雷が落ちないといわれている。昔、この地に落ちた雷が、大日如来さまに、金棒でへそを取られた。それから雷はこの地に落ちないようになったという。へそをなくした雷は夏になると、裸の子供をねらうようになったという。(京谷康信)
(増2)天理市備前町
 備前の天王神社へ、昔、雷が落ちた。神様の怒りにふれて雷はしばられてしまった。それから一度も、この神社へは雷が落ちたことがないという。
 (天理市史による)
(増3)天理市岩屋町
 岩屋の春日神社にも同じような話がある。雷が境内に落ちたので、明神さまがたすきでしばられたという。(天理市史による)
(増4)天理市小島町
 小島の氏神実正神社の会所には、長谷寺の観音の余材で作ったという十一面観音があるが、そのかたわらに十雷《じゅうらい》さんをまつってあるから、昔から雷が落ちたことがないという。村の若い衆が現在の場所へ運んだ時、皆病気にかかったという。(乾健治)
(増5)桜井市下
 下の聖林寺に、大心和尚という高僧があった。お堂でお経をあげておられる時に雷が落ちた。和尚は怒って錫杖で雷の頭をポンとたたかれたので。これにこりて雷はふたたびこの村へは落ちない。(桜井町史による)
(増6)桜井市忍阪
 忍阪の石位寺の東の方に小高い丘があって、大きな藤の木があった。昔、ここに雷が落ちたので、天神様が雷を捕えてお叱りになり、藤の木にしばりつけられたので、雷は天神様にあやまって、ふたたびこの地に落ちないようになった。
 (桜井町史による)
(増7)桜井市山田
 昔、雷がこの地に落ちた時、山田寺の僧がこれを捕えて、
 「恐れ多くも右大臣様の地に雷公ごときものが来るとは何事ぞ。」
と大喝した。雷公は恐れ入って、子孫に伝えたのか、以来、山田寺には雷が落ちることがないという。(桜井町史による)
(増8)大和高田市神楽町
 神楽の八頭神社(後年勝手神社へ合祀)付近に雷が落ちた。村人が遠巻きにして金だらいで押さえた。雷はふたたび落ちないことを誓ったので、村人は会議の上、その罪を許した。それから神楽には雷が落ちないという。(大和高田市史による)
(増9)大和高田市横大路町
 横大路東之町の西福寺にも同じような話しがある。(大和高田市史による)
(増10)北葛城郡香芝町鎌田
 昔、鎌田へ雷が落ちた時、井戸へ釣鐘で封じられ、許されて天に帰ったので、それ以来落雷することがない。 (日見菊千代)
(増11)北葛城郡香芝町五位堂
 五位堂には宝樹寺という寺がある。この寺の本堂の阿弥陀如来が、昔、この境内の井戸に落ちた時、走り出て、背にしていたからかさで井戸を封じられた。それで雷は天に帰られず、天へ帰ることを哀願したので、
 「もう二度と五位堂へは落ちません。」
と誓わして許して天へ帰された。それからこの村へは落雷しないのだという。
 (沢田四郎作・大和昔譚による)  
(増12)五条市東浄町
 昔、ここの八幡さんの井戸の中に雷が落ち込んだので、八幡さんが出てきて、大きな井戸のふたをして雷の出られぬようにされた。雷は泣いて、出して下さいというから、今後東浄には決して落ちませんと約束させて、お許しになった。それから東浄へは雷が落ちないという。(古川松作)
(増13)五条市五条町の八幡宮
 五条男子小学校の校庭にあった雷伏せの八幡宮。昔、その境内に落雷した時、八幡大神が現れて、井戸の中に雷を封じられたという。それからはこの付近に落雷しないといわれる。(五条小学校郷土調査による、吉川星一)
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