● 龍穴と龍穴神社 宇陀郡室生村室生
 室生の龍穴<りゅうけつ>には、善女龍王が住んでゐた。この龍王は、はじめは奈良の猿澤池に居たが采女某が身を投げたので、死穢を厭うて香山に移り住んだ。


室生の吉祥龍穴

然し、こゝにも屍を棄てるものがあったので、更にこの室生に移ったのである。 室生の高僧賢俊<けんしゅん>僧都が、龍王の生身を拝みたいと願をたて、獨り龍穴の中に進んで行った。暗い道を三四丁進んだ時、とても明るい所が来た。そこに一つの宮殿があった。
 僧都はその南側に立って、宮殿の内を窺って見ると、朱簾の中から光がさし、机の上に法華経が一部置かれてあった。
 間もなく、一人の男が僧都の前に現はれ、
 『何用あって、こゝへ来たか。』
と問ふ。僧都は、
『龍王の生身を拝したいので、来ました。』
と答へた。男は重ねて、
『こゝにて対面は叶わぬ。穴を出て三丁ばかり去った所で会はう。』
と云ったので、僧都は穴を出た。すると、龍王は荘厳な衣冠を着し、腰より上を水面に現はした。僧都は、あまりの尊さに、地に伏して拝んだ。間もなく、龍王は姿をかくした。
 後に、僧都は、此處に祠を建て、龍王の像を刻んで祀った。
 これから後、雨乞には、此の社で経を読めば、龍穴の上に黒雲がたなびいて、忽ち大雨が降った。この祠を龍穴神社とよんで、今もある。
 (眞田松露)

龍穴神社
[HOME] [TOP]