● 太郎狼 高市郡高取町
 高取山のうしろの、ヌカガハという所から下って来た所に、田が三枚ある。
 昔、そこに太郎という神主さんが住んでいた。太郎が死んだので、白装束に、鈴のたくさんついたものを持たして、田の中に埋めた。
 ところが、夜、狼が来て神主さんの屍骸をくわえて行こうとし、鈴が鳴った。それで人々はそこへ『太郎狼』と書いて墓にしたという。(辻本久喜夫)
 編者曰、此の章はいささか趣旨が分かりかねるけれども、しばらく報告のままを載せる。 (辻本久壽夫)


 
● 化け狸 高市郡高取町
 昔、高取の曽我神社というお宮様に、何時も、晩になると狐や狸が傘をかついで来て、
『今晩だけ一晩泊めてくれ。』
と云った。このお宮には、太田仁五郎という親切な人が住んでいて、その狐や狸を、言うままに泊めてやったいた。しかし狐や狸は、そこの家の食べ物や鳥を取って逃げて行くことが度々あった。
 ある夜半過ぎに、一人の旅人が泊めてくれと云って来た。それは狐であって、そのうち正体を現して、鶏を取ろうとした。仁五郎は怒って、狐を捕らえ殺そうとした。すると狐が『少しお待ち下さい。今ここに持って居る宝物を、皆あなたに上げますから。』としきりに頼んで姿を消した。あとに金が沢山残してあったので、仁五郎は、一飛びに大変な大金持となった。しかし仁五郎は、間もなく姿をかくし、その屍骸は狐の穴から出たという。 (崎山卯左衛門)


● 桝屋橋 高市郡高取町
 高取川に、桝屋橋というのがある。昔は、川に橋はなく、行く人は、常にこの川に馬を入れて水を飲ませ、その身は畔に休んで、弁当を食べるのを常としていた。桝屋という家の主人がこれを見て、茶店をたて、大いに繁昌した。主人は喜んで、川に木橋をかけ、桝屋橋となづけた。ところが、この橋が出来てからは、馬も水には入らず、馬方も弁当を食べなくなったので、桝屋の家は遂に亡んでしまひ、橋だけが残った。(山田熊夫)


● 帰れ松 高市郡高取町観音寺
 昔、観音寺に、高僧が住んでいた。毎日毎日、寺内の老松をつたって天に上り、神と共に遊んでいた。ところが、或年のこと、大洪水があり、寺内の其老松も、押流されだした。高僧は困って、
 『松の木よ、帰れよ。』
と呼ぶと、木は忽ち水に逆流して帰り、もとの地に止まって動かなくなった。それより此の老松を『帰れ松』といふ様になった。(山田熊夫)


● 又(返り松)
 高取町観音寺に、子島寺がある。其境内に『返り松』といふ松がある。或年の洪水に、其松も流されて行きかかったが、時の住職が手まねきすると、もとの位置にかへって来たので、此の名がついたと云ふ。 (辰巳正身)


● 又(かいれ松)
 高取町の千住院の東に、昔、塚があって、上に大きい松の木が生えていた。或年、長雨の為に、水が出て、其松が流された。其時、千住院のホウシウさんといふ坊様が、ズンズン北へ流されて行く其木に向かって、
 『かいれ、かいれ、かいれ松。』
と呼ぶと、忽ち松が南の方へ返り、もとの所まで戻って立った。それ以来、その土地を、『かいれ松』と呼んでいる。(辻本久壽夫)


[HOME] [TOP]