● 一刀石
 奈良市柳生町(旧添上郡柳生村柳生)
 柳生の戸岩谷、天之石立神社<あめのいわたてじんじゃ>の奧に一刀石といふのがある。五間(一〇メートル)四方ばかりの石が、物で割り断ったように、二つに分かれたものである。
 昔、柳生宗巌<むねよし>は、関西無双の剣客といわれていながら、東から回ってきた上泉伊勢守秀縄のために一本取られた。生一本の宗巌は、その後、印可を得るまで三年間、雨の日も風の夜も、不屈不撓<ふくつふとう>、われを忘れて鍛錬した。そのころ、村人は夜な夜な戸谷岩に騒がしい物音を聞いておののいた。これは宗巌が、山深く分け入って、天狗と試合しているのであった。
 ある時、宗巌は、一刀のもとに天狗を切り捨てたと思いの外、刀はその場に横たわった大石を、見事まっ二つに断ち割っていた。これが今の一刀石である。その時の天狗の爪あとも、なおこの石面に残されている。



一刀石
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